『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
   ―この時代をいかに乗り切るか―

2月28日  「経営というものは」

幸之助は、「経営というものは自分で汗を流し、自分で吸収して、
そして、自然に会得するもの」と、人一倍働いていました。
経営とは、考え、考え抜くことによって得心し、新たな行動のエネ
ルギーを生み出してくるものです。
成功のコツをつかむまで、絶対に辞めない。やり切るということで
す。
これが経営者の命をかけるということだ、と教えられました。

「何のために」を考え原点を忘れない

「志定まれば 気盛んなり」
これは幕末の志士で、松下村塾を開き多くの人材を育てた吉田松陰の言葉です。
「志が明確になると、自ずからやる気が高まり、目的に向かって全力を打ち込めるものである」との意です。「志」すなわち目指すべき方向性を持ち、目的、目標を明確にすることが肝要だというのです。
 一九九九年七月十日、中国・北京での出来事です。倫理研究所創立55周年記念事業として、同年より始まった中国・内蒙古自治区での植林活動は、職員・会員で混成された緑化隊の手により順調に進んでいました。この日は当地で無事に植林活動を終えた隊員30名が、北京空港より関西国際空港に向けて帰路につきました。
到着後は、入れ替わりに次の緑化隊25名が同便に乗って、北京に向かうこととなっていました。ところが北京空港を出発した飛行機が、天候不良のために引き返してしまったのです。
中国国際航空からは「24時間遅れ」が通達されたのみで、運行の再開に関してはまったくの不明。一日でも日程が狂うと、宿泊施設など全ての予定を変更しなければなりません。北京で待機しているスタッフには正確な情報が伝わらず、不安は募るばかりです。北京空港と関西国際空港で長時間待たされている両緑化隊も、不確実な情報により混乱状態に陥っていました。
その時、東京の旅行社から北京のスタッフ宛に、「明日の早朝、北京行きの他社便に空席があり、変更手続きをする予定。ただし航空運賃は高くなります。ご判断願います」との連絡が入ったのです。
 北京のスタッフは日本の本部に電話を入れ、数少ない情報を元に状況を説明し判断を仰ぎました。すると「ご苦労さん。大丈夫、とにかく緑化隊を北京に入れることが最優先だ。お金はあるか」との返事でした。
「大丈夫」という決断の一言と「簡潔な方針」に北京側は勇気百倍。そして「何のために」「今一番重要なことは何なのか」という目的を再確認しました。事務変更手続きなど徹夜での作業となりましたが、その後、事なきを得たそうです。
 思わぬアクシデントに遭遇した時、行き詰まった時、迷った時には、「まず原点に返れ」といわれます。原点とは出発点です。
『万人幸福の栞』の十三条「本を忘れず、末を乱さず」には、「開店の日のいきごみと、友人のよせられた厚意を忘れるから、少しの困難にも、気をくじかせる。終始一貫ということは、成功の秘訣であるが、これが出来ないのは皆本を忘れるからである」と記されています。
 製品には「原料」、温泉には「原(源)泉」、帳簿には「原簿」、「今週の倫理」をはじめ出版物には「原稿」と、あらゆる「原点」があり「本」があります。
 自らの「生命」の原点である「何のためにこの世に生を享け、人生の中で何ができるのか。何をすべきなのか」を再度、振り返ってみようではありませんか。その時こそ生命力が漲り、英知が湧き出で、持てる力を最大限に発揮できるのです。