心の贅肉を減らすには?

数年前より、健康診断の結果が芳しくなかったN氏。一念発起して、ウォーキングを始めました。万歩計を購入し、一日一万歩歩くことを目標に掲げました。

しかし、なかなか効果は現われません。何度もやめようと思いましたが、妻に「頑張ってね、いつまで続くかわからないけど」と言われたことで奮起しました。〈よし、絶対続けてやるぞ!〉と決意。三カ月、半年と続けていくうちに、体が軽くなるような感覚を覚えました。食事にも気をつけるようになり、一年後の健康診断では、数値が大幅に改善していたのです。体重も五キロほど減っていました。

ウォーキングを続けて成果が出たことは、N氏にとって大きな自信になりました。やればやった分、結果が出ることがわかり、続けることの大切さを実感したのです。

健康な体を取り戻すことができたN氏は、充実した日々を送っていました。しかし、思いがけないところから、心の平穏が崩れていったのです。

 

ある日妻に「たまには皆で食事に出かけようか」と声をかけると、「お金がもったいないから」と断られました。また、子供にも「どこかに出かけよう」と誘うと、「めんどくさいからイヤだ」と断られたのです。何気ない家庭内でのやりとりですが、N氏には面白くありませんでした。それどころか、無性に腹が立ったのです。

〈父親である俺が誘っているのに、なぜ断るのか、なぜイヤなのか〉

〈忙しい中、これだけ家族のことを考えているのに、何も分かっていない!〉と、苛立ちを抑えることができません。

次第に家庭内での会話も減っていく中、『万人幸福の栞』のある頁が目に留まりました。

「人を改めさせよう、変えようとする前に、まず自ら改め、自分が変わればよい」という、長年読んできた一節が、初めて、自分の問題として響いてきたのです。

まさに自分は家族を改め、変えようとしていました。ウォーキングで結果が出たのと同じように、

 

「自分がこれだけ思っているのだから、家族もそれに応えるはずだ」という、一方的な思いを押し付けていたのです。そして、思い通りにならないことに腹を立て、家族を責めていたのでした。

〈肉体は健康になったけど、内面は不健康だったな〉と心の内を振り返りながら、N氏は、やればやるだけ結果が出るウォーキングと、人の心は違うのだと気づいたのです。「ひとりよがり」だった自分を反省したN氏は、家族の気持ちや状況を思いやるようになりました。そして、妻や子供の話を、まずは「そうだね」と聞くように心がけました。

また、職場においても、社員の意見を聞いた上で、アドバイスをするように変わってきたのです。

ストイックに自分を磨き高めていく生活は、独善と隣り合わせです。家庭内の問題を機に、自分を深く見つめたことで、心のあやまりに気がついたN氏。体の贅肉(ぜいにく)と共に、心の贅肉も取ることができたのでした。