短気な社長の楽しい実践

不動産会社を経営するN社長は、元来短気な性格でした。
自分の都合に合わないと、キレて人を責める癖を持っていました。
面と向かって人を責めることはないものの、プライベートな空間では暴言を吐いていたのです。
「ばかやろう! 死んでしまえ! くそっくらえぇ」。それが自分にとっての気晴らしでした。
ところが、暴言を吐けば吐くほどイライラして、キレる回数がだんだん多くなってきました。
そんな時、倫理法人会のセミナーで「発する言葉には力がある」と学びました。
何気なく発する言葉にも力が宿っている、その力が周囲に影響を及ぼし、
その言葉通りの人生を歩む…など、自分の言動を改めて省みる内容でした。
これまでは、セミナーでこうした話を聞いても、実行に移すことはなかったN社長。
しかし、この時は違いました。息子の存在です。
父親が日頃発する暴言が、まだ幼い息子に悪影響を及ぼすかもしれないと思うと、変わるのは今しかないと決心しました。
次の日から意識して実践を試みますが、数日経つと、イライラが募ってきます。
なぜなら声に発しないだけで、心の中は、周囲への責め心だらけだったからです。
どうしても溢れてくる負の感情。そこでN社長は考えました。
〈マイナスの言葉は急には止まらない。ならば、プラスの言葉をたくさん発するようにすれば、差し引きされるのではないか?〉
 ある日、妻と義母を乗せて車を運転していた時、前に車が割り込んできました。
「なんだ、馬鹿やろう!」と思わず口をついてしまった後に、ハッとして
「ありがとうございます、ありがとうございます」と言うと、車内の二人から大笑いされました。
その出来事から〈実践は楽しく取り組めばいいんだ〉と気づいたN社長。実践に拍車がかかり、明るい言葉を使うようになりました。
三カ月経つ頃、自分の中の変化を感じ始めました。イライラすることがなくなってきたのです。
N社長は、「暴言を吐くと、自分の中に、キレやすい負の回路ができる。よい言葉を発するとプラスの回路ができるのではないか」
と自らの心の変化を振り返ります。 
実践の威力を実感し、今は「物を大切にし、身の回りを整理整頓する」実践に派生して、経営環境も大きく前進しています。
純粋倫理は、理論だけではなく、実践が大切だとわかっていても、なかなか行動に移せない人がいます。
そんな時、背中を押してくれる要因は何でしょうか。
N社長の場合は、「誰かのために」という思いが実践の大きな動機になりました。
また、自己革新の意欲が強く、問題意識の高さから、自分に必要な実践に気づくことができました。
さらに、途中段階での他人からの承認や賞賛が、継続の弾みになったのです。
人間の細胞は三カ月で入れ替わるといわれます。N社長に倣ってまずは百日、三カ月を目安に、一つの実践に取り組んでみませんか。