物を扱う商売の心構え

お世話になった人に、「ありがとうございました」と声をかけるように、
役に立ってくれた物に対して、「ありがとう」「ご苦労さま」と言えるでしょうか。
私たちは仕事をする上で、さまざまな物(商品、製品、機械、道具など)を扱います。
使った道具を元に戻さなかったり、機械の手入れを怠たるなどの不始末は、思わぬミスを生じさせ、信用を失うことにつながります。
また、仕事上に限らず、脱いだ履物を揃えない、傘のしずくを乾かさないなど、
日常瑣末な物事の始末をきちんとしないことが、実はいろいろの不幸の原因になっているのです。
感謝を込めた後始末の実践は、物事を成功させる第一歩です。

 A社長は、自社商品の販売を委託する際に、その店のトイレを見るといいます。
トイレがきれいに清掃してあれば〈この店は信頼がおける店だ、大丈夫だ〉と判断しています。
反対に、表向きはいくらきれいでも、トイレがひどく汚れているような会社は、注意して判断するとのことです。
社内がきれいに清掃されているか、よく整理整頓されているかどうかは、そのまま会社全体の印象につながります。
中でも「トイレの後始末は、そのまま会社の業績や信用に直結している」というのが、長年の経験から得たA社長の判断基準なのです。

返品された商品は、どこの会社にとっても喜ばしい「物」ではありません。倉庫に入れっぱなしで放ってある会社も多いでしょう。
もし売れ残った商品を「不要な物」「やっかいな物」と捉えれば、その心のままに、商品も不要な物になってしまいます。
紙製品メーカーのS社長は、精魂込めて作った商品が返品されてくると、心の中で〈ご苦労さまでした。
今度は間違いなくお客さまの手元に届くようにします〉と、祈りながら念じています。
そして、出来上がった時と同じように新しい箱に入れ、限られたスペースを創意工夫して、整理しています。
 S社長の心がけは、いつしか社員にも浸透していきました。
やがて物にも反映したかのように、一度返品された商品も売れていったという体験をしています。
物は、人と同じように生きています。人の心がそのまま反映するという点では、むしろ人間以上の精密さです。
商品や製品によって生計を為している人は、商品や製品を大切に扱い、どんなに感謝してもし過ぎることはないでしょう。
後始末は、その感謝の心を行動に表わす実践でもあります。
物を扱う仕事をする上での心がけは次の通りです。
①物の整理整頓、場の清掃に徹しましょう。
②美しい陳列を心がけ、店内を明るい装飾にしましょう。
③商品や製品に対する感謝の式を取りましょう。
後始末によって今年一年の仕事の締めくくりをして、輝かしい新年を迎えましょう。