美味しさは皆で分けよう

大阪にN氏という弁護士がいます。N氏は、自らを〝悪徳弁護士〟と称しています。
悪徳とは、もちろん本来の意味ではありません。
これまでたくさんの恩を受けていながら、恩返しができていない自分をあえて〝悪徳〟
と表現しているのです。
N氏の法律事務所は、大阪の一等地に位置するビルの中にあります。
そのビルの一階を借り上げ、約四十坪のスペースを無料で一般開放しています。
様々な団体が、各種セミナーや勉強会の教室として利用しています。
N氏は、その開設理由について、「恩返し」だと述べています。
多くの人々や大自然から受けた恩、その喜びを多くの人に分けて、喜んでもらうことで、
お返ししたいというのです。
倫理法人会の会員でもあるN氏は、恩と同じように、倫理の学びで得た喜びも、
皆で分けようと勧めています。
モーニングセミナーの講話では「美味しいお饅頭は、一人で食べたらあかん。
独り占めするのではなく、皆で分けたほうがよろしい」と語るN氏。
ここでいう「美味しいお饅頭」とは、倫理のことです。
〈倫理をやってみて、美味しいと思ったら、それを今度は多くの人に伝えて、
喜びを分けてほしい〉と氏は考えているのです。
 純粋倫理の「美味しさ」とは何でしょうか。言い換えればそれは、倫理体験です。
倫理の実践によって境遇が変わった、以前より良くなった、という喜びです。
■朝、目が覚めたらサッと起きる実践を続けた。すると、仕事が順調に進むようになった。
■妻に対して、ニッコリと笑顔で挨拶をするように心がけた。すると、朝食の内容が充実。
夫婦仲もよくなり、家庭の雰囲気が明るくなった。
■朝一番に出社、自ら清掃をして社員を迎えるようにした。
すると、社員たちが率先して社内を整理整頓するようになった。
こうした一連の体験には、人それぞれの味があり、またその人特有の心の動きや行動の変化が
あるものです。その喜びを、「良かった」で終わらせずに、人に伝えること、
それがすなわち喜びを分け合うことになるのでしょう。
その一方で、心がけたいのは、謙虚に伝えるということです。〈倫理は良いのだから〉
という思いが強すぎるあまり、〈自分はこれだけやった〉と偉ぶる気持ちや、
〈いいことだからやれ〉という高圧的な伝え方にならないよう気をつけたいものです。
よいことの実行を人に告げる場合、気をつけねばならぬことがある。
第一に自慢し、偉ぶる気持ちで告げてはいけないということ、
第二に、かといって黙り込んでしまうのではなく、人や社会のお役にたてたらという
謙虚な気持ちで時には進んで、報告することも必要だと知ることである。
(丸山竹秋・月刊『新世』一九七四年十月号「新世言」)
〈自分の体験が人や社会のために役立つのなら〉という謙虚な気持ちで、
倫理の「美味しさ」を伝えていきたいものです。
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何事も恩を受けたら返す。
良きことは広めたいですね。