心を磨く三十一文字

短歌は、五七五七七の三十一
文字からなる、日本の伝統文化の一つです。喜びも悲しみも偽らず、誇張せず、そのまま、ありのままを言葉で表現します。
短歌づくりを始めて、十年が経つMさん。結婚後、四人の子供に恵まれたMさんは、子供の成長を歌に詠んできました。
幼子のつかまり立ちの練習にアイロン台はほど良い高さ
これは、生後十カ月でつかまり立ちを覚え始めた三男の愛くるしい姿を詠んだ歌です。
ライダーに変身をした幼子は強くなったと兄に歯向かう
三歳の次男が、仮面ライダーの変身ベルトを装着し、兄と触れ合う姿を表現しました。
幼子の父の日に書いた似顔絵は点々のヒゲと右手にビール
当時五歳だった長女からの贈り物。その嬉しさを詠んだ歌です。 
幼子の背中で踊るランドセル
春の日差しにキラリ輝く
小学校に入学した長男。弾む足取りで、真新しいランドセルを背

負い通学する姿を表現しました。
家庭内の日常を短歌に詠み続けて、Mさんは、子供一人ひとりの個性を実感できるようになりました。「その個性を伸ばしてあげることこそが親の役目だ」と、Mさんは感じています。

 倫理研究所が行なっている文化事業の一つに、「しきなみ短歌会」があります。倫理運動の創始者・丸山敏雄が、昭和二十一年三月に創立しました。
現在、「しきなみ短歌会」の支苑数は、全国で三四五。月刊誌『しきなみ』には、毎月五千二百名近くの投稿者があり、日本の短歌結社誌では、出詠数トップとなっています。
個性の発揚、生活の浄化には、種々の道があるであろう。ここにわれらは、短歌を得た。短歌は、われらの祖先が、最初に築きあげた芸術であり、今日残されて居る初期のものでも、すばらしい高さに達している。(中
略)文学の形式として、このよ

うな長い生命をもっているものは、外にないといわれる。実にわが国はえぬきの、また独得の平明簡素な詩形である。
(丸山敏雄『作歌の書』より)
短歌を通じて、生活の浄化と個性の発揚を目指すところが、しきなみ短歌の大きな特色です。
短歌を詠むにはまず「じっと見る」ことから始まります。仕事で忙しく、子供たちと接する時間も少ないMさんでしたが、短歌をきっかけに、子供たちをじっと見るようになりました。
「毎日の生活を改めて見直してみると、そこに美しさが満ち溢れていることがわかる」と丸山敏雄は説いています。短歌づくりを機に子供たちの成長を知り、ありのままの良さを見つけられるようになったMさん。家族に限らず、周囲の人や物に対しても、感動をしたり、感謝をしたりすることが多くなったといいます。
短歌は、ありのままを言葉で表現することで、自らの心を磨く実践なのです。