『吉田松陰一日一言』

川口雅昭氏編  致知出版
『吉田松陰一日一言』
―魂を鼓舞する感奮語録―

11月25日 「明決と誠」

機を見るの明決と誠の貫徹とにて事は出来候。  
安政5年7月13日「※要路役人に与ふ」

【訳】

好機を見抜く判断力、決断力と、まごころを貫くことによってのみ、大事なことは完遂できるものである。

『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

11月24日 「成功の源泉」

使命感を持つと情熱が生まれ、情熱が生まれると強い決意が生じてくる。
経営活動とは指導者の使命感の発露であり、
それが具体的な成果となるのです。
形の無い使命感や情熱が決意となって成功を作り出していく。
「君、決意こそ、すべての成功の源泉やで」
幸之助は厳しい視線で私に言いました。

短気な社長の楽しい実践

不動産会社を経営するN社長は、元来短気な性格でした。
自分の都合に合わないと、キレて人を責める癖を持っていました。
面と向かって人を責めることはないものの、プライベートな空間では暴言を吐いていたのです。
「ばかやろう! 死んでしまえ! くそっくらえぇ」。それが自分にとっての気晴らしでした。
ところが、暴言を吐けば吐くほどイライラして、キレる回数がだんだん多くなってきました。
そんな時、倫理法人会のセミナーで「発する言葉には力がある」と学びました。
何気なく発する言葉にも力が宿っている、その力が周囲に影響を及ぼし、
その言葉通りの人生を歩む…など、自分の言動を改めて省みる内容でした。
これまでは、セミナーでこうした話を聞いても、実行に移すことはなかったN社長。
しかし、この時は違いました。息子の存在です。
父親が日頃発する暴言が、まだ幼い息子に悪影響を及ぼすかもしれないと思うと、変わるのは今しかないと決心しました。
次の日から意識して実践を試みますが、数日経つと、イライラが募ってきます。
なぜなら声に発しないだけで、心の中は、周囲への責め心だらけだったからです。
どうしても溢れてくる負の感情。そこでN社長は考えました。
〈マイナスの言葉は急には止まらない。ならば、プラスの言葉をたくさん発するようにすれば、差し引きされるのではないか?〉
 ある日、妻と義母を乗せて車を運転していた時、前に車が割り込んできました。
「なんだ、馬鹿やろう!」と思わず口をついてしまった後に、ハッとして
「ありがとうございます、ありがとうございます」と言うと、車内の二人から大笑いされました。
その出来事から〈実践は楽しく取り組めばいいんだ〉と気づいたN社長。実践に拍車がかかり、明るい言葉を使うようになりました。
三カ月経つ頃、自分の中の変化を感じ始めました。イライラすることがなくなってきたのです。
N社長は、「暴言を吐くと、自分の中に、キレやすい負の回路ができる。よい言葉を発するとプラスの回路ができるのではないか」
と自らの心の変化を振り返ります。 
実践の威力を実感し、今は「物を大切にし、身の回りを整理整頓する」実践に派生して、経営環境も大きく前進しています。
純粋倫理は、理論だけではなく、実践が大切だとわかっていても、なかなか行動に移せない人がいます。
そんな時、背中を押してくれる要因は何でしょうか。
N社長の場合は、「誰かのために」という思いが実践の大きな動機になりました。
また、自己革新の意欲が強く、問題意識の高さから、自分に必要な実践に気づくことができました。
さらに、途中段階での他人からの承認や賞賛が、継続の弾みになったのです。
人間の細胞は三カ月で入れ替わるといわれます。N社長に倣ってまずは百日、三カ月を目安に、一つの実践に取り組んでみませんか。

夫婦関係こそ発展の源

S氏は、住宅設備の設置と販売業を営んでいます。
今では堅実な経営を心がけているS氏ですが、かつては経営難に苦しんでいました。
苦境を何とか打開しようと知人に相談をしたところ、返ってきたのは意外な答えでした。
それは、妻や子供に呼ばれたらすぐに「ハイ」と返事をする実践でした。
経営のことで悩んでいるのに、なぜ家庭生活のことを言われたのか、不思議に思ったS氏ですが、
たしかに家で「ハイ」と返事をすることはありませんでした。
それどころか、夫婦の会話すらほとんどない状況だったのです。
それまでのS氏は、家事育児はすべて妻に任せきり、何か問題が起こっても、無関心を決め込んでいました。
家庭を顧みない夫に、いつしか妻も関心を向けなくなり、夫への不足不満を子供にぶつけているような有様でした。
夫婦仲は冷え切っていたので、「ハイ」と返事をするのはとても無理なように思えました。
しかし、ほかに打開策があるわけではありません。S氏は家庭内での実践に必死に励みました。
呼ばれると「ハイ」と返事をする夫に、最初は不思議そうな妻でしたが、次第に夫婦で挨拶を交わす機会が増えてきました。
途切れ途切れだった会話も、少しずつ続くようになってきました。
妻の話に耳を傾け、妻の悩みや大変さにも気づくようになったS氏は、〈
自分は何と家庭を顧みない夫であったか〉と反省しました。
そして、夫婦仲が改善するのと呼応するように、会社の業績も徐々に回復していったのです。
夫婦の間のことは企業とは直接関係がないようだが、その実、大いに結びつきがある。
夫婦関係がごたごたしていたり、家庭内別居のような関係にあったりしていると、その事業がうまくゆかないことが多い。
(丸山敏秋著『倫理経営原典』より)
家庭生活と事業経営はひとつながりです。家族を喜ばせ、楽しませることができない経営者が、
はたして従業員や取引先の人たちの心を掴み、喜びを提供することができるでしょうか。
さらに踏み込んで、とりわけ夫婦のありようがそのまま事業に反映するというのが純粋倫理の考え方です。
なぜなら、「夫婦」という相反する二つの力が溶け合って一つになった時に、あらゆる物事の生成発展があるからです。
男女には、正反対のようなところが沢山あります。会話一つとってみても、男性は結論を先に話し、
女性は一から順を追って話す傾向があるといわれます。そうした違いを認めた上で相手を受け入れること。
そして、自分から進んで妻に(夫に)心を合わせていった時、新たな創造が生まれます。
事業の繁栄もまた、相反する夫婦の和合から生まれるのです。
事業の発展に、夫婦仲の良いことは欠かせません。経営者は家庭人でもあります。
夫の自覚、妻の自覚を高め、それぞれの役割をしっかり果たすところに、経営への活力も漲ってくるのでしょう。

『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

11月23日 「正面から挑む」

すべての事柄を正面切って受けて立つ。
そんな気概を幸之助にいつも感じていました。

どんな逆境にも敢然と立ち向かう生き方が、幸之助自身の
命を強くしていったのです。
正面から挑むという、指導者の一念が事業を成功へと導い
ていったのです。

心が燃えずにうろたえていては、偉大な事の成就は絶対に
不可能なのです。