木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―
3月24日 「窮地は常にある」
窮地は常にある。それを乗り越えていく中に、智慧の輝きが
出てくるのです。この考え方が、幸之助の哲学です。
即断即決は事業の要諦。スピードで成否が決まります。
「王道の経営と人間主役の経営が、その大きなカギとなるこ
とを、君自身が君の心に教えよ」と、幸之助から厳しく叱られ
ました。
木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―
3月24日 「窮地は常にある」
窮地は常にある。それを乗り越えていく中に、智慧の輝きが
出てくるのです。この考え方が、幸之助の哲学です。
即断即決は事業の要諦。スピードで成否が決まります。
「王道の経営と人間主役の経営が、その大きなカギとなるこ
とを、君自身が君の心に教えよ」と、幸之助から厳しく叱られ
ました。
倫理研究所創立者・丸山敏雄がこの世に生を享け、今年で百二十年という大きな節目を迎えました。
丸山敏雄は福岡県築上郡合河村字天和に丸山家の四男として生まれ、激動の明治、大正、そして昭和を駆け抜けました。
特に昭和二十年の敗戦を境に、人心荒廃の日本人の姿を目にし、〈このままでは日本は本当に駄目になってしまう〉と、果敢に自ら純粋倫理をもって日本再建に乗り出したのです。
丸山敏雄は多くの著作を遺していますが、その中に青年向けに書かれた『青春の倫理』という本があります。その本の書き出しに「青年よ、足下を掘れ」という文章があり、その中に「フンの中に生まれた虫はフンのにおいを知らぬ」という一文があります。
私たちはその環境の中に入ってしまうと、自分のやっていることが、正しいことなのか、それとも誤っているのか、自分自身では判断できない場合があります。
今まで当たり前と信じてやってきたことが、世間や他人から見ると非常識であると受け止められる場合があります。そればかりか、自分ではわかっていなかったということがあり、事の顛末に愕然とする時があるものです。
例えて言えば、手に取るように妻の気持ちはわかっており、妻との間には何のわだかまりもなく、心が通い合った夫婦だと思い込んでいた夫が、ある日「あなたは人の言うことを一切聞かない自分勝手な人だ」と言われ、その後は妻からの一つひとつの指摘に打ちのめされるということです。
「あなたは私が一所懸命に話しかけても、テレビや新聞を読みながら上の空で聞いている。一度でも私の顔をキチンと見て話を聞いたことがありますか。食事の時や用事がある時、あなたを呼んでも一度もハイと返事をしたことがないし、三度の食事も美味しいのか不味いのか何も言わない」などと、妻から不満をぶちまけられるのです。
親子関係や隣近所との関係などを改めて見つめ直してみると、私たちは実にもろい状態にあるのかもしれません。額に汗を流し、誠心誠意、相手の幸せを念じつつ仕事をやってきたつもりであっても、相手が自社をどのように捉えているのか、わからなくなっている場合もあるのではないでしょうか。
社員のことを思い、何事も社員の先頭に立って実践してきたつもりが、その自分の熱い思いがまったく社員に伝わっていないばかりか、「社長はお天気屋やでワガママで身勝手な人だ」と思われていたという場合もあるでしょう。自分の思惑と相手の受け止め方には、大きな隔たりがあるケースがあるのです。
今一度、足下を見直してみましょう。やっていたつもりであったものが、独りよがりであったかも知れないと、朝起きてから夜床につくまでの一つひとつの実践を吟味して、まずやれることから徹底的にやるのです。
必ずやっただけの結果が出るものです。本物であってこそ、環境が動くのです。相手を変えようとするのではなく、自らが実践を通して変わりましょう。幸不幸のもとは、私たちの足下にあるのです。
企業経営で避けて通れないことの一つに、
事業継承の問題があります。
帝国データバンクが41万社を対象に後継
者の実態調査を行ない、その三分の二が「後
継者がいない」または「未定」となっている
ことが発表されました。
後継者不在という状況は、高齢の経営者に
とっては喫緊の課題です。実際、社長の平均
年齢は五十九歳七カ月と、三十年連続で上昇
しているといいます。親族や役員などへの継
承を考える企業も多く、最近では企業の合
併・買収も一つの手段として検討する企業さ
えあるようです。
そもそも事業継承とは、「誰か」が現社長の
会社を引き継ぐことです。「社長の持ち物」で
ある会社を、良いも悪いもすべて相手に移譲
することになります。「よりよい会社」として
相手に引き継がせるためには、社長自身の存
在が重要なカギなのです。
事業継承は企業発展への形であり、社長自
身の人柄や人格の向上が求められます。ある
中小企業経営者の体験を見てみましょう。
S社長は社員や家族に怒鳴り散らす社長で
した。その高慢さをお客様も感じ取ったのか、
だんだんと客足が遠のきました。十人いた社
員も二人にまで減り、社員からの信頼は無く
なっていきました。
さらには家族までもがS社長を無視するよ
うな態度に、「こいつら、何で俺の言うことを
聞かないんだ」と憤る日々でした。そして仕
入れ先の支払いは滞り、資金繰りが不安定に
なっていきました。
経営悪化のために命を断とうとも思い込ん
だS社長。交友関係の延長でしかなかった倫
理法人会に、すがる思いで駆け込みました。
そこで学んだのは、「目が覚めたらサッと起き
る」や「先手の挨拶をする」という実践に、
徹底して取り組むことでした。
自分の心が家族に向き始めたためか、久し
ぶりに妻や息子から「おはようございます」
という声が聞かれました。その瞬間、S氏は
心に温かいものを感じたといいます。
それまでは仕事に関わらなかった家族でし
たが、妻から「経理を手伝おうか」という言
葉をかけられ、長男にも「一緒に仕事をさせ
てほしい」と言われたのでした。家族経営に
よって事業を立て直した結果、お客様から再
び信頼を得られるようになっていきました。
事業発展への道は、必ず社長自身の人柄・
人格が反映します。そこにこそ事業継承の鍵
があるのです。会社を継ぎたいと思わせるこ
とはもちろんですが、周りの人をも巻き込ん
で「関わりたい」と思わせることが大切です。
事業発展と事業継承は同じ道なのです。
純粋倫理の創始者・丸山敏雄の著作『サラ
リーマンと経営者の心得』より、事業経営者
としての心がけを確認してみましょう。
①皆の心がぴったりと、一人で呼吸するよう
にそろっているか。
②進んで喜んで、かかっているか。
③堤防をおしきって押し流す大水のように、
猛烈な勢いで進んでいるか。
肝心なのは、社長自身の心構えです。顧客
から、社員から、家族から信頼される人物で
あるかです。それが根となり幹となり、新た
な枝葉や種子へと発展するのです。
木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―
3月23日 「その一念が深ければ深いほど」
その一念が深ければ深いほど、智慧は限りなく湧いてくるもの
です。
学ぶことは、生きることです。
「悩みが吹き飛んだ。心が希望で膨らんだ。これで元気が出た。
これで乗り切れる」
「同じ一生ならば、一日また一日、自分らしく花を咲かせて生き
切ることだ」と、幸之助は常に真剣に生きていました。
鹿児島市内で食品スーパー九店舗を経営するA社長。昭和五十四年の社長就任以来、これまでにない業績を昨年十二月に達成することができました。
A社長のこれまでの経営戦略の主眼は、チラシ広告による特売の宣伝や、ローカルFMラジオを利用した宣伝といった、外に向けての情報発信でした。
お盆休みや年末商戦、そして大型連休には連日ラジオによる宣伝をすることで、一日平均二千名の来客数アップにつながり、一日の平均来客数は一万名にまで達しました。しかし結局は宣伝期間のみの繁盛であり、一過性のものとして終わっていました。
これまでは何の疑いもなく、「地域に根ざした食品スーパーが生き残るための努力はこれしかない」という思いで懸命に取り組んでいたA氏でした。それが倫理法人会を通じて、経営には変えてはならない事柄と、変えなければならない事柄があることを知りました。そして、これまで自分がやってきたことは、実は変えなければならない手法やテクニックに頼った経営ではなかったかと気づかされたのです。
変えてはならないブレないものを身につけなければ、大型店進出が進むこの時代には生き残れないと意を固め、まずは元気な挨拶をA社長自らが実践しました。
社員・パートの女性たちに、朝から元気のよい挨拶を実践しました。開店と同時に社員と共に赤いハッピを身にまとい、お客様に対して「いらっしゃいませ!」「ありがとうございました!」と大きな声で挨拶することで、いつの間にか元気な挨拶が評判となるスーパーに変わっていったのです。
年の瀬も迫った十二月三十日、A社長はあることに気づきます。例年、年末は最低でも一時間に一本のクレーム電話が入る時期なのに、今年はまったく無いのです。担当部長のほうに集中的に入っているのではと思い尋ねてみると、やはり一本のクレームも入っていないということでした。
そして迎えた新年、年末実績が確認されました。9店舗中8店舗が昨年実績を上回り、来客数では一〇五・一%増の約27万人の来客(鹿児島市人口の半数)となりました。
このような実績が残せた要因は、販売戦略や広告活動が大きく影響しているといえますが、最大の要因はトップの率先垂範の実践とスタッフのお客様に対する姿勢、態そして心が変わったからだといえま。
度、す「あいさつは誠の先手」と申します。(中略)先手、それはトリックや、さぐりや、用心の手ではありません。思いやりの、親切の、敬愛の先手、これはまず挨拶からです。挨拶を、朗らかに美しくかわしましょう。これが、一家の生活の、一日の仕事の、まごころの先手。今日という二度とこない良き日に、燃えさかる命をります。
吹き込む第一手であ(『清き耳』丸山敏雄著)
真心のこもった挨拶は、あらゆる環境を一変させる妙法です。先手で明るく元気な挨拶を心がけたいものです。