『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
―この時代をいかに乗り切るか―

4月2日 「人智を越えた力によって」

「人智を越えた力によって、自分の手の届かない世界まで
味方にしていけるとの強い一念が、成功を招き、人を大きくする」
幸之助は、いつも言っていました。
この一念に立てば、如何なる苦悩に直面しようとも、
「宿命」を「使命」に変えることが出来る。
どんな困難も局面も打開出来ると、確信して事業を進めていたのです。
信じる力が大切だと学びました。

小さな積み重ねが未来を創る力となる

東日本大震災より3年が経ちました。未だ
三十万人以上が辛く厳しい避難生活を余儀
なくされていると伝えられています。一日も
早い被災地域の復興を願うばかりです。
K氏は二年前の震災当日、東北地方の出張
中でした。
平成二十三年三月十一日、十四時四十六分、
宿泊先のホテルに到着し部屋に入った瞬間、
あの大地震が起きたのです。震源地からは離
れた都市でしたが、かつて経験したことのな
い揺れにK氏はパニック状態になりました。
室内の灯りは消え、逃げるに逃げられず、
どうしていいのか分かりません。やがて揺れ
が収まると、非常ベルに加えて、「ただ今、
地震が発生いたしました。お客様はすぐに避
難通路より避難してください」と館内放送が
流れ、部屋には電話がかかってきました。
廊下に出てみると、既に懐中電灯を持った
スタッフが待ち受けており、余震の続く中、
避難通路から何の混乱もなく宿泊客全員を
外へと誘導したのです。その後、責任者を中
心に集合し、的確な指示が出されました。
外は吹雪、ホテル内は停電という中で、即
座に毛布が配られました。その夜、ロビーは
避難所さながらの様相となりましたが、おに
ぎりと漬物、温かい味噌汁が振る舞われたの
です。宿泊客はほとんど不安なくロビーで一
夜を過ごしました。
このホテルは倫理法人会の経営者モーニ
ングセミナーの会場であり、朝礼も実施され
ています。普段から礼儀正しく、キビキビと
して気配りの届いた社員が多いとの評判で
す。しかし普段は冷静に対応できていても、
いざ緊急時となると混乱し、統制が取れなく
なったりするものです。K氏は「スタッフの
冷静な動きとチームワークの良さに加えて、
単純で小さな習慣の積み重ねが、ある時大き
な力を発揮するのだ。『微差は大差』という
印象を持った」と言います。
毎朝の「職場朝礼」や週に一回の「経営者
モーニングセミナー」なども、朝のわずかな
時間の活用ですが、積み重ねることによって
良い習慣として自然に身につき、必要な時に
力を発揮するものです。加えて、返事や挨拶
などの起居動作の習得を含めて、組織力を高
める連帯感やチームワークは積み重ねるこ
とで磨き高められていくのです。
パナソニックの創業者・松下幸之助氏は
「心配りの行き届いた仕事は一朝一夕には
生み出せない。やはり日ごろの訓練やしつけ
がモノをいう」と語っています。剣豪・宮本
武蔵は「千日のけいこを鍛とし、万日の稽古
を錬とす」という言葉を遺しています。上達
するには繰り返し、繰り返し、鍛錬、努力す
るほかはないということです。
「継続は力なり」です。「一日に一回」をま
ずは手始めとして、「石の上にも三年」とい
われるように、一度始めたことは三年を目標
に続けてみようではありませんか。振り返れ
ば、確かな実績が築かれているはずです。

創業の理念に立ち夢への道を切り拓く

日本は今、岐路に立たされていると言われ
ています。長引くデフレによる景気低迷、震
災の復旧・復興、エネルギー戦略の確立、教
育のあり方、安全保障・社会保障、少子・高
齢化など様々な問題を抱えています。
このような混沌とした社会の中で生き残
っている企業には、どのような戦略・戦術が
あるのでしょうか。
刺繍レースの製造・販売をしているN社は、
最新鋭の機器と独自の技術で斬新なデザイ
ンの刺繍製品を作り出している企業です。織
物業を営む創業者が刺繍レース機と出合い、
「世界初のレースの着物を作りたい」という
夢を、信頼する当時二十三歳の社員であるA
氏に託し、レース部門を立ち上げました。
レース事業を立ち上げた当初は、繊維産業
の構造不況などに直面していた厳しい時代
であり、製造技術やノウハウなどまったくな
い状態でのスタートでした。尊敬・信頼して
いた創業者の夢を何とかして叶えたいと試
行錯誤を繰り返し、また刺繍技術の高いスイ
スに単身で乗り込み、時には社員を送り込ん
で、最先端の技術習得に励みました。
同時に、独自の経営革新計画に沿って、市
場のニーズを先取りして設備投資をタイム
リーに行ない、当時、国内の同業他社に先駆
けて、五億円を投資して最新鋭のレース機を
六台購入し、新しい事業展開を始めました。
しかし、どんなに設備投資をして高品質の
商品を製造しても、取引先に恵まれなければ
意味がありません。氏は大手メーカーや問屋
に認められるだけの技術力の向上に努めつ
つ、血眼になって飛び込みの営業活動を続け
た結果、女性用インナーウェアの国内トップ
メーカーとの取引きが成立したのです。
設備投資の五億円は五年で返済すること
ができ、現在では斬新な発想を持って、希少
価値のある新しい商品開発に努めています。
同社が強く生き残ってきた要因は、「時代
のニーズや変化に即応して設備投資をした」
「技術力の向上に努めた」「大手メーカーと
の取引きに恵まれた」など多々ありますが、
最大の要因は創業より氏が「創業者の夢を実
現したい」という強い信念を持ち続け原点を
見失わなかったことと、社是として掲げてい
る「誠心誠意、正直正路」を一貫して守り続
けてきたからにほかなりません。
現在、県の倫理法人会のリーダーとして活
躍する氏は、倫理法人会で得た学びの成果を
次のように語っています。
「当たり前のことを当たり前にやる。基本的
な所作が身についていなければ、パーフェク
トな仕事はできません。糸クズ一本が気にな
らない人は、きめ細かなレース商品は扱えま
せん。微細なゴミでもゴミとして気になる感
覚は、日々欠かさずに行なう清掃や活力朝礼
を通して身につくのです。これからも世界ト
ップの刺繍レースメーカーを目指し、時代の
変化に即応した経営革新を図りながら輝き
続ける企業でありたいと考えています」
成功者とは「成功するまで諦めない人」で
す。氏の生き方に学び、創業の理念・原点か
らブレない強い信念と、当たり前のことを当
たり前に実行する力を養いたいものです。

『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』

木野 親之著
『松下幸之助に学ぶ 指導者の365日』
   ―この時代をいかに乗り切るか―
4月1日 「成功は現状を変化させなければ」
「変化は不変の法則だ。
 変化にいかに対応するかで勝負は決まる。
 成功は現状を変化させなければ、本当の成功とは言えない。
 現状をよい状況に変化させるために、経営をするのだ」
 幸之助は、常に「今が出発点だ」と心を尽くして経営をしていました。
 素直な心で初心を貫いた人でした。

社員教育の秘訣は真の愛を注ぐこと

「どうしたらK君は本気になって働くのだ
ろう」「最近、S子さんの様子がおかしい。
仕事に身が入っていないようだ」など、社員
の仕事ぶりに関して悩まない経営者はいな
いでしょう。社員教育や人材育成は、経営者
にとって最大の課題であるといえます。
心から喜んで働く社員が多くなれば、職場
は放っておいても活気づき、そして活力が湧
いてきます。どうすれば社員が自ら進んで働
くようになるのでしょう。
社員を育成する上で大切なのは、「社員を
変えようとしても決して社員を変えること
はできない」という真実を認識することです。
これまでの自分自身を振り返ってみまし
ょう。他人から注意されても、結局のところ
は変わらないものです。他人から指示を受け
ただけでは、その時は変わったように見えて
も、いずれ元の状態に戻ってしまいます。
ただし、社員に対して少なからず影響を与
えられる場合があります。それは「社員は社
長の言うことでは変わらないが、社長の行な
いや心で思っていることの影響は受ける」と
いう現象に目を向けることです。
社員に限らず、人が育つ上で源となるもの
が「愛」です。つまり、社長が真の愛に溢れ、
本物の愛に満ちただけ、社員はその愛を受け
て変化し成長することができます。
N社では、社員が入社して数年が経過し、
一人前になると、やる気のある社員から退職
願いが出て、会社を辞めていくという状況が
続いていました。せっかくここまで時間と経
費をかけて育成し、ようやくこれから本当の
意味で社に貢献してもらおうという矢先の
退職に、N社長はいつも憮然としていました。
そんな折、知人の社長から「社員の退職は
君に愛情が足りないからだ」と指摘されまし
た。「君の愛情を豊かにするために、まずは
最も近い愛情の対象である妻に対して愛情
を高めることが大切だ」と教わったのです。
確かにN社長には思い当たるところがあ
りました。社員が特に思うように働かない時
は、その不満を我が家に持ち帰っては妻に対
して不機嫌な態度を取り、愛情らしい愛情は
ほとんど妻にかけていなかったのです。
それ以降、妻の言うことに耳を傾け、休み
の日には買い物にも一緒に出かけました。N
社長は、これまで一方的に妻に要求をするば
かりで、妻の意見は一切受け入れていなかっ
た自分を改めて省みました。
そして、このことを会社にも当てはめて考
えてみました。専務に対しては妻と同様に要
求ばかりで、まったく専務の意見を聞いてい
なかったのです。専務に対する愛情が欠けて
いたことを反省し、それからはできるかぎり
意見を聞くよう心がけました。
この社長自身の愛情の変化と共に、社員が
明るくなり始め、社内全体の雰囲気が一変し
ました。その後、社員の定着率が上がり、社
員の働きぶりも向上して、会社は活況を呈し
て現在に至っています。
社員の成長を願う時には、「自分がどれだ
け本当の愛に満ちているかどうか」を胸に手
を当てて考えてみましょう。そこにこそ人材
育成・社員教育のポイントがあります。